【H30年度第5種】ホタルの保全生物学的研究および里山学修活動による熊谷市の活性化と地域貢献

担当:

地球環境科学部 助教 関根一希
2018年度 生物学実験および環境生物学実習の履修生
NPO法人熊谷市ほたるを保護する会メンバー

内容:

1.背景と目的:
ホタルは多くの人たちに愛される昆虫であり、里山を代表する生物である。しかし、1960年代以降、人間活動の変化に伴った農林業の不振および里山の荒廃化や、河川の三面張のコンクリート護岸などがホタルの生息地を縮小化させた。都市部では、絶滅に近い状態であり、都市から離れた地域での「ほたる祭り」は、都市部から多くの観光客を集め、地域活性化につながる。一方で、ホタルの人為的放流もあり、遺伝子移入を生じた地域固有性の喪失も生じている。
本研究事業では、熊谷市に生息するホタルの分布及びその起源、つまり在来の自然由来の個体群であるか、あるいは人為的放流によるものかを明らかにし、地域住民へ情報を発信すると共に、学生にホタルの良好な生息地となる里山環境およびその維持管理方法を学修させることを目的とする。

2.方法
(1) 埼玉県および熊谷キャンパス近辺における ゲンジボタルの分布・個体数調査
2018年5月29日の19:30-21:00に、熊谷市千代および柴において、調査区を1-8まで細分し、環境生物学実習を履修する学生全員 (33名) で個体数調査を実施した。

(2) ゲンジボタルの遺伝子解析
熊谷市柴から13個体、千代から8個体、および上新田から1個体の計22個体のゲンジボタルの遺伝子解析を行ない、COII遺伝子 650-bpとND5遺伝子 631-bp を特定した。

3.結果と考察
(1) 埼玉県および立正大学熊谷キャンパス周辺におけるゲンジボタル
立正大学熊谷キャンパス近辺である熊谷市千代や柴、上新田といった旧江南町では多くのゲンジボタルが現在も生息していることが明らかになった。1970年代に旧江南町のゲンジボタル個体群は縮小したが、その後の生活排水設備の整備などといった生息環境の改善により、現在までの個体数に増加したと考えられる。また、1998年と1999年にそれぞれ約3万もの幼虫個体が放流されており、放流によって個体数が急激に増加した可能性は高い。

(2) 熊谷キャンパス近辺のゲンジボタルの遺伝的特性
熊谷キャンパス近辺に生息する多くの個体は西日本系統の遺伝子をもつことが明らかとなった。埼玉県熊谷市は、東日本系統が分布する範囲内であり、本来、西日本系統は分布していない地域である。先行研究においても、埼玉県西部に位置する比企郡嵐山町の10個体 (1998年の採集個体) はCOII遺伝子によって、入間郡越生町の3個体 (2001年以前の採集個体) はND5遺伝子によって解析されているが、いずれも東日本系統であることが報告されている (Suzuki et al., 2002; 吉川ら, 2001)。したがって、人為的な放流由来の西日本系統の個体が生息するようになった可能性が高い。
現在、熊谷市にもともと生息していた東日本系統の割合は低く、
遺伝的な地域固有性は大きく崩れている状況にあると言える。

4.PDFポスターリンク
H30第5種ポスター(関根一希)