【R1第1種】英語教育の環境的・支援的充実化に関する研究

担当

経営学部講師 工藤 紅、心理学部准教授 Giancarla Unser-Schutz、文学部特任講師 Samuel Rose

概要

本研究は、研究チームが2018年度に行った研究を踏まえ、より実践的な研究に発展させたものである。「大学における英語教育の実態と現場のニーズに関する研究」では、立正大学の英語教育に不足しているものの1つに、学生のニーズに合った学習の場があることが明らかになった。また、学生が求めている英語学習サポートと現場の事情の比較を行い、その合致度を検討した。そうすることにより、学生たちの英語学習に対するモチベーションを高め、政府の求めるグローバル人材育成に必要な語学力を養うことにつながると考えることができた。そこで本研究は「学習の場」に注目し、実験的研究を行うことにより、英語学習の場を設けることに対する需要、それによる学生の英語学習に対するモチベーション、学習効果を図ることを目的として行った。実施を予定していた調査・事業は、(A)立正大学における英語教育関連資源の現状に関する調査、(B)創造的な支援ツールの観察調査、(C)WebClass英語学習の講座開発事業、(D)「英語コーナー」の臨時仮設による英語に触れる機会提供、(E)若手のゲストスピーカーによる英語学習に関するセミナー事業、以上の5点であった。

まず上記事業(A)及び(D)に関連し、教員がどのような場が学生の英語学習に効果的と考えているか、教員に必要な場はあるのかどうかを知るため、英語教員に対するインタビューを行った。2018年に実施したアンケート調査のフォローアップとして位置付け、立正大学各学部の英語担当教員11名に対しインタビューを実施することができた。日本人教員に対しては工藤が、英語ネイティヴ教員に対してはウンサーシュッツがメインのインタビュアーとなり、約30分のインタビューを行った。それぞれのインタビューは、外部委託でテープ起こしを行い、データとして保存している。結果は、近々分析する予定であるが、教員のこれまでの背景が、彼ら・彼女らの教育方針にも影響を及ぼしながら、英語教員としての共通認識も存在し、ネットワークの必要性が改めて確認できた。上記調査の(A)に関しては、国際交流センター、クラブ・サークル等、学内での英語教育に関する取り組みを確認すると同時に、教員へのインタビューを行うことで、各学部の英語教育の現状をある程度把握することができた。

次に、上記事業(D)を実現するべく、学生がどのような場が求めているかを明らかにするために、経営学部、心理学部、文学部の学生、992人を対象として2018年度に行った英語教育に関するアンケート集計結果の分析を行った。その結果、「授業外で英語に触れられる場所が十分に用意されている」という文に対し、「非常にそう思わない」(105名)、または「やや思わない」(305名)と答えた学生が43%であった(図1)。これは、「非常にそう思う」(40名)、「ややそう思う」(160名)と答えた、「授業内の英語学習の場」が十分に用意されていると考えている学生(21%)を大きく上回っている。学内には、授業外のそのような場が十分にないと考えている学生が多いことは明らかである。また、最も多かったのは「どちらでもない」と答えた学生(36%)であったが、その中には、そのような場について考えたことがなかったり、興味がなかったりする学生が多く含まれていることが推察できる。このことも、そのような場が、学生に意識されるような場所に存在していないことを示しているといえるだろう。

11月に名古屋で行われたJapanese Association of Language Teachersの全国大会にて、ウンサーシュッツと工藤がそれまでの研究成果で得られた、英語教員の意識と、学生の英語学習に対する姿勢に関し、What do students think about ESL policies? という題名で発表を行った。この内容は、“Rethinking ‘Global-Jinzai’ Policy: Exploring University Students’ Attitudes”と題する論文でJALTの学会誌に掲載予定である。本発表・論文では、上記の調査データを活用し、グローバル人材という概念に対する態度をはかることを通して、学生が教育政策をどう捉えているのかについて考察を行った。その結果として、学生が国際的に活躍することが必要だと感じながら、個人としての目標としてはやや否定的であることが示された。上記を踏まえ、教育政策の〈中身〉には概ね肯定的であるにもかかわらず、自分がその政策の対象だとは感じていないという解釈を行い、自分にとっても現実的である機会提供の必要性を訴えた。そのためにこそ、キャンパスでも英語に気軽に触れられる場が必要だともいえるであろう。

本年度は、研究チームが予定していた1月以降のスケジュールが、新型コロナウィルスの影響により、変更となり、実行できなくなってしまったものがいくつかあった。まず、教員に対するインタビューの結果、英語教員同士の意見交換の場を設ける「場」を求める教員が多いことが分かったため、お互いの英語教育に関する情報、テクニックなどを交換するFDの開催を計画していたが、そちらも中止となった。同じ理由で、(E)もイベントとして計画を進めることができず、実行ができなかった。また、(D)の英語スペースを設置するヒントとするため、また、予定していた事業(B)の実行のため、国際教養大学等、英語スペースの充実している他大学を視察に行く予定であったが、不可能となった。ウンサーシュッツが10月に開催されたKorean TESOLで報告した通り、とくに調査の結果として、資料を与えるだけでは学生が活用する見込みが少ないということが明らかになったため、長期的なビジョンの下で持続可能な形で提供する方法を考える必要がある。学生に積極的に活用してもらえるスペースにすべく、その提供の仕方を慎重で不可欠な継続課題として検討し続ける。

様々な理由から、本来の目的を達成することができたとは言い難いが、2018年の研究を補完することはできた。また、今後本学の英語学習の場を作る際に重要と思われる点、現在ある「場」に関する問題点などを明らかすることができたという点で、意義のあるものであったと考えられる。各大学が新型コロナウィルスによって余儀なくオンライン授業に切り替えることになった現状では、本研究のテーマの一つでもあった教員同士のネットワークの必要性がなお顕著になっている。非常勤講師への指導、カリキュラムの統一性の管理、学生のモチベーションの持続、教員の孤立感の緩和、等々、以前より英語教育の特有な問題が、さらに顕著になっている。この状況下、支えとなるネットワークが、これまで以上に必要になっているであろう。