【R1第3種】中央銀行の私的情報の発信における意味論的曖昧性:日本銀行に関する自然言語解析

担当:経済学部 准教授 慶田昌之

内容:

2019年度の研究成果として、前年度から開始していた研究を”The Art of Central Bank Communication: A Topic Analysis on Words used by the Bank of Japan’s Governors”として2019年5月にRIETI Discussion Paper Seriesから発表した(竹田陽介上智大学教授と共著)。この論文は日本銀行の白川総裁と黒田総裁の記者会見のテキストデータをLatent Dirichlet Allocationを用いて分析した。その結果、「政策の目標」、「政策の手段」、「裁量」という経済学的に解釈可能な3つのトピックを抽出することができることを示した。また、3つのトピックの割合は、白川総裁と黒田総裁の交代で大きく変動し、さらに黒田総裁の期間中の2016年初頭に再度大きな変動があったことを示した。2回の大きな変動があったことは、同時に政策スタンスの変動があったことを示唆するものである。政策的な議論の対象である中央銀行当局の政策スタンスの変更を自然言語処理によって抽出したという意味で、経済学分野における自然言語処理の有用性を示している。特に自然言語処理による分析と経済学的な解釈の間を埋めることができる可能性を示した意義は大きい。この論文でまとめた内容を4月に金融班・設研共同研究会で、8月に日本銀行で開催されたFourth Annual Conference of the japan Economy Networkで発表した。
また、本論文の概要を英国の政策ポータルサイトVoxEUで”The art of central bank communication: Old and new”というタイトルで報告している(2020年4月に掲載)。https://voxeu.org/article/art-central-bank-communication
その他として、2019年8月に行われたAsia-Pacific Economics AssociationのFifteenth Annual Conferenceに参加し、韓国銀行における金融政策に関する自然言語処理を用いた研究グループの報告の討論者を務めた。金融政策と自然言語処理を用いた研究者との交流を通じて、われわれの研究の進め方に対して大きな示唆を得ることができた。