【R1第3種】新しい価値観の言語的交渉の場としてみる電子掲示板に関する社会言語学的研究 

担当:

心理学部 准教授 ウンサーシュッツジャンカーラ

内容:

本研究は、2017年度からの継続的課題であり、匿名なSNSでは、利用者が言語的方略を活用することにより、コミュニティーの共通意識がいかに育てられていくのかを究明することが、主たる目的であった。2017・2018年に実施した調査の結果として、SNSにおいて規範に対する共通意識を訴える有標なやり取りが頻繁に見られるため、価値観が主題になりやすいのと同時に、その語りにおいてフェイスワークが頻繁に行われ、交渉的なやり取りになっていることが明らかになった。2019年度は、構築したコーパスの整理と拡張および代表的な投稿を対象とする質的な分析を行い、上記の過程の仕組みを明らかにすることを目指した。

 

研究の実施にあたり、4~5月は昨年度の活動を振り返り、1年の計画を立てた。6月~8月は昨年度コーパス構築アプリケーション=Sketch Engineで抽出したデータの整理をし、必要な補助的データを改めて抽出した。9月は、新しく抽出データを分析に向けて処理した。10月以降は、その分析に入り、その進展に努めた。これまでの分析の一部を、6月に開催された、語用論研究の最大規模であるInternational Pragmatics Associationにて発表した。当発表では、電子掲示板上の腐女子による投稿における言語的やり取りを事例にし、自分の価値観やアイデンティティが相手に許容されないと予想するときに、人がどのような言語的方略を活用し、コミュニティーと居場所を構築していくのかを考察した。また、7月に開催された日本語ジェンダー学会、9月に開催されたPoznan Linguistics Meetingの年次大会では、掲示板から抽出したデータの一部を活用し、その有効性を示した。

 

コロナウィルスの影響で、テレワークやオンライン授業が急激に増加している今日、相手が見えない非対面コミュニケーションを円滑に進めるためのコツが、なお大きな課題となっている。非対面コミュニケーションにおける〈やりにくい〉やり取りに着目することを通して、本研究から引き続き重要な心得が期待できる。