【R1第2種】業務参画型コーオプ教育におけるプログラム開発と構築のための実践研究

担当:法学部准教授 西谷尚徳、株式会社アターブル松屋取締役執行役員営業副本部長 寺輪佳輝、

株式会社 グレープストーン本社管理本部総務・人事部長 武田秀之

内容:

1)研究概要

本研究では,学部・企業間で行う授業形態でのコーオプ教育実習プログラムを構築し,企業と連携して授業と一体化させたコーオプ教育の実施体制を整えることで,就業体験を兼ねたアカデミック・プログラムを確立することを目的とする。日本の大学ではインターンシップでの事例が多いが,産学官の大規模な組織運営を必要とするため学部や教員の単位での運営が難しい。またインターンシップは,就業体験の比重が大きくなることで大学教育としての課題もあるとの指摘がある。一方で,コーオプ教育は大学教育としての学習が比重を占めるとの指摘もあり(田中,2013),学部や授業レベルの小規模な単位で,少人数規模や多様な学生に合わせたキャリア教育を展開できる。これにより,授業の一環として内容の設計や評価が可能で,連携企業との柔軟な展開ができると考えられる。ただ,コーオプ教育に関する運営組織を持たない大学・学部では,コーオプ教育の実践および研究が遅れており,産業界や社会と連携した就業体験・学習往来型教育についての先行研究が蓄積されていない。

本研究は,産学連携によるコーオプ教育の実践研究としての基盤研究である。具体的には,⑴学生が本格的な業務として企画提案・商品開発に携わるための授業デザインの開発,⑵学生が業務に携わる教学プログラムの体系化によって,コーオプ教育を授業で展開する。これにより,企業と協働で業務参画型コーオプ教育実習プログラムを開発し,運営組織に頼らないコーオプ教育を実践する。

*コーオプ教育とは,大学などの教育機関が主導して,産業界や社会と連携して進められる就業体験・学習往来型教育である。

(2)研究背景

毎年,厚生労働省が発表する「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」では,早期離職率の中でも大卒者だけで実に3割に達する。これは新卒学生と企業側とのミスマッチングとも言える問題であり,大学教育でもキャリア教育の課題ととらえる必要がある。日本の大学のキャリア教育では,多くの大学でインターンシップが推進される。他方,日本におけるコーオプ教育は発祥の地・アメリカのコーオプ教育から分化,発展してきた歴史的経緯を踏まえ見習ってきた背景があるが(加藤,2008),その展開はいまだ発展途上と言える。これらを踏まえると,コーオプ教育を展開する上での課題には大きく2点が考えられそうである。

一つは,日本のコーオプ教育が企業のメリットに働きかけきれていない点である。コーオプ教育の特徴は,大学側が企業に働きかけて学生を業務に参画させる。そのため,大学としては産学連携が企業側のメリットとなるような展開が求められる。また,そもそもの企業への働きかけや交渉等が課題でもある。大学側が企業と協働で学生教育を展開することは,企業にとって教育事業を独自のCSR(社会的責任)事業として展開し,積極的に発信することでもあるため強みとすることができる。企業にとってのメリットについて明確化することが課題として求められる。もう一つは,大学側が新卒者とのマッチング機会の確保やマッチングへの貢献として充分寄与できていない点である。コーオプ教育の(特に企業側の)目的の一つに人材の確保という視点がある。企業側は,インターンでは補い切れない人材を見極める機会として,コーオプ教育に頼ることが期待できる。その機会を大学独自に提供することで学生との接点を持つことも可能となる。人材育成の観点は,大学が持つべきキャリア教育の視点の一つとも言える。コーオプ教育の展開によって企業とのマッチング課題を克服する展開も可能である。

(3)具体的内容

本研究は,学部教育としての職業統合的学習を授業で展開していくため,持続的な教育プログラムを構築する基盤的な研究である。本研究では,あらかじめ教育プログラムに理解と賛同を得た2社と学部との教育協定を締結に至った。その上で,協働教育事業として「業務参画型コーオプ教育の実習プラン」を開発し実施した(図1)。

本プログラムは,企業と学部で開発した教育プログラムである。履修する学生は,年度開始前の時期(3月末)ガイダンス及び選考によって決定する。履修者決定後,学生各々が希望によっていずれかのプロジェクトを選択することができる。学生は,それぞれの企業から提示される課題内容を受け取り,その解決へ向けて進めていく。6ヶ月間の実習では,学生が各企業での研修を受ける中で課題が提示される。課題の解決に向けた取り組みがフィールドワークとなり,学生にとっての学びとなる。大まかな流れは,8・9・10月で研修及び課題の提示,実地調査を展開,11月にそれまでの研究及び調査を踏まえ,企業側に成果発表(プレゼン)を行い,12月に課題克服の再発表,講評,意見交換などを実施,1月に研究者及び学生自己による評価を取りまとめる(企業側とも共有)。年度末には振り返りとして学生同士(場合によっては企業側も参席)でプレゼン発表を行う。

受け入れ企業先の課題は,企業の実際の業務でも課題となっている事柄を挙げている(表1)。令和元年度(平成31年度)の実施では,法学部「実務演習Ⅵ(民間企業フィールドワーク)」において,婚礼・婚礼事業を展開するA社の課題に対して,本学生が発案した企画が「売上獲得策(活動計画)」の一つとして採用された。また,洋・和菓子製造販売を展開するB社では,学生のプレゼン及び集約した意見が商品開発部門の参考資料として受託された。また,実習自体はB社が実施するインターンや新人研修等でも参考にされるとのことである。これらにより①プログラム構築,②教育実習制度の確立の成果を挙げることができた。企画提案や商品開発など学生が本格的な業務の一端を担うという,学習や研修の成果が具現化されるコーオプ教育を構築することができ,受入企業との共同による育成体制を整えることにつながった。

本研究では,学部の教育プログラムでありながら学生が本格的に業務の一部を担うことができるため,企業への貢献やCSR(社会的責任)事業として企業側の強みともなる。今後,このような位置づけを考慮し,大学教育としてもキャリア教育の目的のもと,将来的に学生が就職する際のマッチングを目指したコーオプ教育の実現につなげるために,令和2年度以降も事業を継続していく。

(4)研究の成果と今後の課題

以上のことから,コーオプ教育実習プログラムを構築し,企業と連携して授業と一体化させたコーオプ教育の実施体制を整え本研究の目的を達成することができ,一定の成果を挙げられたと言える。ほかにも学生教育としての評価について,キャリア教育の視点から企業の関与の可能性について検討している。具体的には,コーオプ教育の評価として,学生の業務経験や研修成果に対する企業側の評価(助言や指導)を提供してもらうことである。大学のキャリア教育の視点でも参考になると同時に,コーオプ教育の独自の評価指針を作成する上で参考になる。また,こういった事業の成果が産学連携として別の展開が可能かどうかについても検討を進めている。

今後の課題は,学生の事業成果を授業評価に反映するための検証や,学生の就職活動に反映できるよう企業の協力体制の確立を検討することである。そのためには,学生の進捗を詳しく見たり,授業回ごとの記録を細かく留めたりといった作業をもとに,詳細な評価指標を作成することが求められると思われる。現在までに学生のレポートやコメント,企業の所見・講評等は試料として収集しており,定量的な評価データの蓄積を重ねている。データが蓄積されることで,学生の業務への貢献や成果などが可視化され,学生自身の授業評価やキャリアに反映できると考えられる。大学・企業間でのデータ共有とともに,本研究に見合った評価体系の確立を目指したい。

(5)参考文献

加藤敏明(2008)「立命館大学におけるコーオプ教育手法と評価研究」日本インターンシップ学会『インターンシップ研究年報』第11巻,17-23.

田中寧(2013)「コーオプ教育の歴史と現状,および,日本における展開とその課題」京都産業大学『高等教育フォーラム』第3号,9-20.

石井英真(2016)「レポート課題を評価するとき」成瀬尚志編『学生を志向にいざなうレポート課題』127-158, ひつじ書房.

Linda,S. (2010) Assessing Student Learning a common sense guide Second Edition. San Francisco: Jossey-Bass.リンダ,S. (2015)『学生の学びを測る』(齋藤聖子訳)玉川大学出版部.

鈴木敏恵(2012)『プロジェクト学習の基本と手法』教育出版.