【H30第3種】新しい価値観の言語的交渉の場としてみる電子掲示板に関する社会言語学的研究

担当

心理学部 准教授 Unser-Schutz Giancarla
 
内容

本研究の目的は、不特定多数の利用者のいる匿名なSNSでは、言語的行為を通して共通の価値観がいかに構築され、交渉されるのかを究明することであった。2017年度に実施した予備調査の結果では、利用者が「普通」や「常識」といった規範を強調する表現を活用することにより、自分の行動の正当化に努めるが、そういった訴えが、交渉の引き金にもなり、結果的に価値観が流動的である意識を高めることが示された。その過程を明らかにするために、2018年度の研究では、SNSへの投稿を抽出し、コーパスとして収集し、量的・質的な手法により、コーパスによって得られたデータのディスコース分析を実施することを計画した。 

研究の実施にあたり、4月・5月はコーパスの対象投稿選別・データの扱い方について調査をし、計画を立てた。6月より、インターネット上のサイトをコーパスとして抽出するアプリケーション=Sketch Engineを活用し、対象のSNSとした発言小町の投稿を抽出したコーパスを構築し収集し始めた。7月よりその分析に入り、研究の成果の一部として、9月に開催されたCMC and Corporaにて、コーパスの構築と初歩的な分析について発表した。具体的に、規範を訴える表現に伴い、フェイスワークに用いる表現が共起する傾向があることが示され、やり取りは交渉的であることが明らかになった。後期は引き続きディスコース分析を進め、11月に開催されたAmerican Anthropological Associationにて、コーパスの量的分析を補助するものとして、質的に投稿のディスコースの分析も試みた。

本研究で、SNSにおける価値観の共有過程に焦点を当て、電子コミュニケーションとコミュニティの研究に有意義な成果を残している。コーパスのデータを引き続き分析することにより、現代社会における他者とのつながりにおける重要な役割を果たしているSNSに対する理解が深まることが期待できる。