【H29年度第5種】愛染堂・愛染明王像の保全と星宮地区の地域活性化

担当:

仏教学部教授 秋田 貴廣, 地球環境科学部准教授 原 美登里

内容:
1.概要
熊谷市下川上にある愛染堂の愛染明王像は、「藍染」と「愛染」の関わりからかつては関東一円の多くの染め物業者からの信仰を集
めていた、この地における庶民信仰や生活文化の歴史を示す貴重な存在である(像高150㎝の巨大な坐像)。しかしながら20世紀後半、
当地の染色業の衰退にともなって維持管理のための母体が失われ、それとともに御堂の破損が進行し、継承が危ぶまれる状況に
至っていた。本教育研究は、学部・学科の枠を超えた学生が、愛染堂(と愛染明王像)を中心にこの地域に培われていた文化について、
異なる複数の学問領域の視点から総合的に調査し、それを文化的資源として継承していくための環境づくりや方法について、協働して
探る取組みである。若年層の柔軟な発想力と、多様な視点からの検討をすり合わせることによって、“文化”をあらためて地域の人々と
つなぐあり方を導き出すことが期待される。参加する学生にとっても、異なるバックグラウンドをもとに意見交換することによって、通常
の授業では得られない教育効果を生むことが期待できる。

2.背景と目的
愛染堂の維持継承における特殊な状況として、本来その母体となるべき
寺院組織が機能していない点が挙げられる。かつては染色業の人々の
寄進などによって維持されてきたものの、業種衰退によって維持継承の
母体が完全に不在の状況に至っている。さらに熊谷市下川上地区は国内
で多くみられる農村地帯であり、熊谷市の郊外に位置しているが高齢化・
少子化が進んでいる地域である。このまま時間が過ぎてしまうと、地域に
存在した文化が完全に風化してしまう危険性が高い。
そのためこの取組みにおいては、次世代を担う若者に向けていかに発
信するかが重要な視点となり、学生が関わる意義もこの点にあると言えよ
う。若年層の発想力・行動力をもとに、現地調査および課題発見・解決に
向けてその能力を遺憾なく発揮してもらうことによって、この難題に対する
有効な切り口を見つけることが目的である。参加する学生にとっては、異
分野の学生間の活発な研究・調査交流の機会になると思われる。

3.方法と結果
本教育研究における到達目標は、愛染明王像の保存継承計画の提案、
地域資源の発掘および地域資源マップ・ガイドブックの作成である。それを
実現するための地域連携事業として、2016年度~2017年度をとおして、仏
教学科の学生を中心に愛染堂内の愛染明王像と絵馬の損傷状態に関す
る調査を行い、地理学科の学生を中心に当該地域の中央を流れる星川の
水質・流量・生物調査、水利用調査、建物調査、地域イベント、文化財に関
する調査を実施した。さらに地理学科の学生は、本地域で実施された行事
(三島神社縁日、マコモ作り、繭玉作り、愛染堂縁日、コスモス祭り、学習
発表会など)にも積極的に参加し、地域資源の発掘に努めた。その間、数
回の合同ゼミを実施し、調査結果の発表会および意見交換を行った。
上記の活動の成果として 「星宮・水のタイムスリップ」「歩いて発見!星
宮文化ガイドマップ」の2種類の地域資源マップを作成し、星宮地域住民に
配付するとともに、熊谷市へ贈呈した。また2年間の取り組みを「熊谷市星
宮地区における地域資源に関する調査・研究報告書」としてまとめた。

4.その他
地域資源の発掘のために、異なる焦点をもつ5つのチーム(文化・水・生物・街並み・観光)に分かれて調査作業を行った。各チームに仏教
学科と地理学科の学生を混在させることで、異なるバックグラウンドに基づいた意見交換が展開され、互いに刺激を受けながら新たな発想が
生まれた。これは一学部・一学科で学んでいるだけでは得ることのできない教育効果である。
星宮地区への訪問回数は300回をゆうに超えるものとなった。未だ愛染明王像の保存継承計画の提案には至っていないものの、この地域
の「自然や文化の記憶」を確認する作業は進展している。「過去から現在」の経緯の中にこそ「未来」のあり方への鍵が内蔵している。この地
域の未来を模索するためには資源の発掘は必要不可欠であり、我々の活動がその一助となれば幸いである。

5.ポスターリンク
H29第5種ポスター(秋田貴廣)