【R1第5種】熊谷市妻沼地区における古民家等の活用に関する情報発信を通じた学生教育 

担当:
片柳勉 地球環境科学部 教授
廣瀬俊明 くまがや市商工会 経営指導員
小川恵司 くまがや市商工会 経営指導員

内容:
1.事業の背景と目的
 2000年代以降、大学と地域の連携についてさまざまな取り組み事例が報告されている(小林英嗣ほか編,2008)。教育系の大学では、地域学習のなかに地域連携を取り入れた結果、一定の教育効果があったとしている(地域と連携する大学教育研究会編,2012)。筆者も2012年度から2017年度にかけて、熊谷市妻沼地区を実習地として地域連携による教育活動を行い、観光マップや観光パンフレットの作成、観光案内デスクの設置、空き店舗の運営などを通じて一定の成果をあげてきた。そこで、2019年度の事業では過去の活動成果を踏まえ、地域情報パンフレットの作成を軸とした地域連携活動を実施し、その教育効果を検証することとした。
 パンフレットで取り上げる対象は、地域活性化に寄与すると評価が高いリノベーション(古民家・空き家・空き店舗の活用)とした。近年の地方都市中心部における活力低下は著しく、景観面では空き家・空き店舗の増加として現われている。筆者の専門分野である都市地理学ではこの問題に大きな関心を寄せ(由井ほか編,2016)、地理学を学ぶ学生の関心も高い。本事業では上記問題に関わる実践的な教育活動が、学生の学力・資質向上にどのような効果をもたらすかを問うため、次の手順を取ることとした。①熊谷市妻沼地区における古民家等(空き家・空き店舗を含む)の活用状況を調査し、その結果をもとに連携協力者のアドバイスを受けて地域情報パンフレットを作成する。②活動終了後に参加学生を対象に学修達成度に関するアンケートを実施し、地域連携で行う教育活動の効果を検証する。

2.事業の内容
 本事業は、地域連携の手法を用い、古民家等の活用に関する調査から情報発信に至る一連の作業を通じて、地域貢献・学生教育を行うことに特色がある。ここでいう地域連携とは地域での学習を効果的に進めるための手法で、作業で得られた成果を地域に還元するための手法でもある。手塚ほか(2010)は地域での活動そのものを地域貢献と位置づけており、この考え方は筆者の地域貢献の捉え方に等しい。
 地域と連携して教育活動を行うことのメリットは多く、最大のメリットは学生に対して大学と異なる学びの場を提供できることにある。まちづくりを進める地域そのものが教材となり、利害関係の無い地元住民と交流することができる。また、教員と学生が継続的に現地に入ることにより地域関係者との信頼関係が深まり、さまざまな支援を受けて活動を円滑に進めることができる(片柳,2018)。本事業における大学(地理学科片柳ゼミ)と連携協力者(くまがや市商工会)の関係は図1、2019年度の活動内容は表1のとおり。

3.事業の成果
1)地域情報パンフレット「新めぬま観光読本。」

 「新めぬま観光読本。」はA4サイズで全8ページ・オールカラー、発行部数は15,000部で、そのうち12,000部を熊谷市に寄贈した(図2)。パンフレットでは主に妻沼地区における古民家等の活用、食、農業などを取り上げているが、その特色は店舗や農家でのインタビューを通して気づいた同地区最大の地域資源である「人物」に焦点を当てた点にある。パンフレットの発行は、埼玉新聞、熊谷経済新聞、J:COM熊谷・深谷など各種メディアで取り上げられた。
2)事業の教育効果
 地域連携による教育活動の効果を検証するため、ゼミ生15名を対象に学修達成度アンケートを2019年12月19日に実施した。その結果、15名中14名の学生が地域との連携活動に「積極的であった」「ある程度積極的であった」と答えており、活動に前向きに取り組んでいたことがわかる(表2)。また、連携活動を通じて社会常識が身についたと答えた学生が14名、学問的知識が身についたと答えた学生が13名、課題を発見する能力が身についたと回答した学生が11名いた。これらの数字は社会常識や学問的知識の習得、課題発見能力の向上を図るうえで、地域での実践的な活動が有効であることを示している。

文 献
片柳 勉(2018):熊谷市妻沼地区における地域連携による教育活動の展開と課題.地球環境研究,20,pp.25-42.
小林英嗣ほか編(2008):『地域と大学の共創まちづくり』学芸出版社.
地域と連携する大学教育研究会編(2012):『地域に学ぶ、学生が変わる』東京学芸大学出版会.
手塚 眞・福士正博・安川隆司(2010):学生の地域貢献─単位認定化を中心に,東京経大学会誌,265,155-171.
由井義通・久保倫子・西山弘泰編(2016):