直実.蓮生まつり記念誌として 

「 直 実 慕 情 」 発刊にあたって


     ミニコミ紙、月刊“タウンタウン熊谷”が創刊した
    のは、昭和63年6月1日でした。先ずオーナーとの会議
    でタウン誌の顔ともいうべき1面の表紙に何を持って
    くるかということが協議されました。熊谷のシンボル
    といえば、歴史的にも幅広く知られ、菩提寺・熊谷寺
    もあり、今なお愛され続けているということから「熊
    谷次郎直実」が挙げられました。市内にも研究者は多
    くおられ、発表されたものも少なくありません。わが
    タウン誌は視点を全国に向け、直実さんゆかりの地を
    訪ねて。その人間像にスポットをあててみよう、と、
    スタートしたのでした。タイトルも=熊谷ラブストー
    リー「直実慕情」、直実・蓮生さんをより身近に感じ
    てほしいという想いをこめました。

     信長・秀吉・家康といった立志伝中の偉人でもなく、
    ラブロマンの主人公でもない。義経・隆盛のような悲
    劇の最期を遂げた英雄でもないのに、歌舞伎や文学を
    通して日本人の心の中に何百年もの間、親しまれ続け
    たのは何故か。取材を重ね、研究者たちの本を読みな
    がら考えました。

     源平があい争う激動の時代に武士として生き、人間
    関係に悩みぶつかり、戦争では人を殺め、剛の者とし
    て讃えられる一方で、わが子を愛し、わが子と同じ年
    の敦盛を討ち取ったことから、世の無常をつきつけら
    れることに。わずらわしい世事、領地争いとその判定
    に怒り、8年後に出家。その後は法然上人を師とも親
    とも慕う幼な子のように生きました。ひたすら念仏を
    唱え、敦盛や有縁無縁の人々の供養をします。
    直実時代から蓮生へ。剛直から愚直へ。姿や名前は
    変わっても、本質はあくまでも純粋一途ということで
    しょう。喜怒哀楽をかくすことなく赤裸々に生き、激
    しく怒り、感動する人間。それが我らが「直実・蓮生
    さん」でした。ただ私たちは彼のように体制に逆らっ
    たり、筋の通らないことに真っ向から逆らったりはし
    たくてもできないことでした。そこにハラハラしなが
    らも痛快さとうらやましさを感じていたのかもしれま
    せん。

   本当の凄さは「上品上生」の願い

    18年ぶりに過去の紀行文を読みかえしてみると、懐
    かしさとともに、自分の幼稚さに面白さを感じます。
    その分、いかに年をとったということでしょうが・・・
    今回は恥を承知で昔のまま、掲載することにしました。
    何も知らない記者をご指導くださったのは熊谷寺の
    故・漆間景和前住職.また漆間和美住職が出版された
    「熊谷法力房蓮生法師」。熊谷文化連合編「熊谷直実」
    や日下部朝一郎さんの「熊谷人物事典」など多くの書
    物、諸先輩たちでした。

     そして今回、思いを新たにしたのは、熊谷寺の副住
    職・漆間淳郎さんの語られた「蓮生さんの凄さ」でし
    た。以前にはわからなかったことが、おぼろげに見え

てきたのです。それは蓮生さんがあくまでも「上品上
生」にこだわったということでした。「上品上生」は
宗教上の言葉で今まで何度聞いても良くわからない言
葉でした。それが、氷が解けるようにすっと心にとけ
こんだのです。「一蓮托生」自分だけが極楽にいくの
は意味がない。自分も敦盛もそして多くの戦さで殺め
た人も無縁の人も共にひとつの蓮の上に生まれる。そ
のために出家したのだと言い切る凄さ。まさに「坂東
の阿弥陀仏」たるゆえんだと思いました。と同時に時
代が時代とはいえ、戦さためとはいえ人の生命を抹殺
したという罪の大きさを、直実さんがいかに重く苦し
く受け止めていたかということです。私たちは「歴史
物語」として、文学や芸能の世界では、戦争は生なま
しいものとしてではなく、美しく悲しく描かれたもの
を見てきました。人を殺すという行為はどんなに恐ろ
しいものかを、直実さんの出家の決意という行いと人
生最期の「上品上生」の願いで知ることができたので
す。
自分のことだけが最優先する今の世にあって、この直
実さんの姿こそ意味があるように思います。

 10年前、「800年忌には市民の心を形にしたいネ」と
仲間たちと話し合ったものでした。しかし、10年たて
ば暮らしも、人間模様もかなり変わりました。それで
もこの町には直実さん大好きという方が大勢おられま
す。だからこのお祭りもできました。
「直実慕情」は実行委員会のスタッフとご協力いただ
いた人たち全員の心だと思います。
この「直実慕情」は一タウン誌の記録ではなく、800
年忌の祭りの記念誌にしたのはそういう意味があるの
です。祭りを盛り上げ、協賛ののぼりにご協力くださ
った方、スタッフたち、直実市に参加しお店やイベン
ト参加者たち、縁の下の力持ちで働いてくださった方々
の思いが、この本にこめられていることを記憶してお
いてほしいと思います。



直実さんの生涯
     年表
     ゆかりの寺と人紀行
     直実以降の一族の歴史と分布
     一族寄稿
     スタッフ・私の中の直実さんに。
     のぼり提供者のお名前
     規格 B5版 本文96頁 定価500円

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    直実.蓮生まつり記念誌として
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