直実三昧         くまがや桜

 いちはやくさきかけにけり武士の名におふさくら雪もいとはす

    文献によると、江戸時代は熊谷市内でも多く見られたが、明治以降は絶えて"幻の桜"に。
    地元の桜ファンクラブ(横田透会長)が茨城県結城市の農場に三本だけ残っていたうちの
    一本を譲り受け、1993年11月に同公園に植樹した。


  熊谷桜守、横田透さん

『桜は手をかけないと咲かない。一気に咲いて散
っていくから短命。その上、クマガイザクラは古
文書に記されただけの幻の桜、この世にあるかど
うか、どんな花か諸説紛々。その神秘と八重、小
輪の可憐さ、他に先駆けて咲くことから、直実の
一ノ谷の戦いのさきがけになぞらえて「いちはや
く 咲きかけにけり 武士の 名におふ桜 雪も
いとはす」と詠まれている。その桜一筋に十六年。
毎年少しづつ、市内中央公園・常光院などに植樹
してきた。挿し木をし大事に育ててお嫁入りさせ
 るという気の長い仕事だ。「面白いですよ、長生
 きの桜には守っている人がいるんです」。また、「面
 白いのは一生懸命やるとつくんです。最高は、千
 本挿して二十本」と。木と人の思いは寄り添って
 いるのだ。この時期、冷蔵庫には用意された挿し
 芽が眠っている。そして小枝の花芽がそれとはわ
 からないほどに、膨らみ始めている。通りを隔てた
 街の賑わいを余所に、日溜まりでひっそりと時を
 刻んできた桜の木々。樹下では手ずから餌を貰い
 満足げな猫が優雅に顔を撫でていた。』

【『さきたま新聞』2号】より