『桜は手をかけないと咲かない。一気に咲いて散
っていくから短命。その上、クマガイザクラは古
文書に記されただけの幻の桜、この世にあるかど
うか、どんな花か諸説紛々。その神秘と八重、小
輪の可憐さ、他に先駆けて咲くことから、直実の
一ノ谷の戦いのさきがけになぞらえて「いちはや
く 咲きかけにけり 武士の 名におふ桜 雪も
いとはす」と詠まれている。その桜一筋に十六年。
毎年少しづつ、市内中央公園・常光院などに植樹
してきた。挿し木をし大事に育ててお嫁入りさせ
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るという気の長い仕事だ。「面白いですよ、長生
きの桜には守っている人がいるんです」。また、「面
白いのは一生懸命やるとつくんです。最高は、千
本挿して二十本」と。木と人の思いは寄り添って
いるのだ。この時期、冷蔵庫には用意された挿し
芽が眠っている。そして小枝の花芽がそれとはわ
からないほどに、膨らみ始めている。通りを隔てた
街の賑わいを余所に、日溜まりでひっそりと時を
刻んできた桜の木々。樹下では手ずから餌を貰い
満足げな猫が優雅に顔を撫でていた。』
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